ビジネスモデルとは
事業とはつまるところ「誰に・何を・どの様に提供するか」であり、ビジネスモデルはこれらの活動によっていかに儲けるのかを端的に表現したものです。
ビジネスモデルをまとめる事は、既存事業が成長するためのボトルネックを明確にしたり、新規事業アイディアに抜け漏れが無いかをチェックするためにとても有効な手段です。
有名なフレームワークに「ビジネスモデルキャンバス」がありますが、余程慣れていないと枠内を埋めるだけで疲れてしまうなんて声も聞きます。そこで、私はもう少し簡素化したオリジナルのフレームワークを用いる事が多いです。
1.ターゲット
誰に対するビジネスなのかを明確にします。
ここで大切なのはセグメンテーションによるターゲティングです。「買ってくれる人なら誰でも良い」という気持ちも理解できなくは無いですが、ターゲットの不明瞭なビジネスは万人受けを狙ったつまらないビジネスにしかなりません。万人受けビジネスは体力のある企業が圧倒的に有利である事を考えれば、経営資源が限られる中小企業ほど、ターゲットを明確にすべきだと言えます。
マーケティングの権威であるコトラーは、セグメンテーションの目的は新たな市場の発見(インサイト)にあると言っています。また、古今東西を通じて最高の戦略指南書とされる「孫氏の兵法」には「戦わずして勝つ」という教えがあります。独自の切り口でターゲットを捉える事は、競合と直接戦わずに勝つ手段だと考える事もできます。
例えばスターバックスとドトールはどちらも国内に広く出店するカフェチェーン店ですが、ターゲットの捉え方には大きな違いがある事にお気づき頂けると思います。
誰でも思いつく様なターゲットには既に多くの競合が存在するので、独創的な切り口で魅力的なターゲットを探す努力をしましょう。
2.提供価値
ターゲット顧客にどんな「価値」を提供するかを明確にします。
提供価値は商品・サービスそのものではなく、それによって顧客がどんな便益を得るかという意味です。
提供価値を適切に捉えないと「マーケティングの近視眼」が起きる事があります。「マーケティングの近視眼」とはセオドア・レビットが提唱した概念で、事業領域を狭く捉えてしまうと、大きな環境変化を見落としてしまう事があるという意味です。例えば、音楽の楽しみ方がCDからストリーミング配信へ変化していく中で、「高品質なCDを安価に作る」事を提供価値にしていた会社があれば、時代に取り残されてしまうでしょう。
かつてスターバックスは家庭でも職場でも無い「第三の場所」を提供するのが存在価値だと主張していました。でも実際の利用状況を見ているとテイクアウトが多いのがスタバの特徴であり、むしろドトールこそ喫煙者に「落ち着いてタバコを吸える場所」を提供していると思いませんか?
※但し、今は禁煙のドトールも増えましたねw
3.顧客接点
「ターゲット顧客」へ「提供価値」を届けるために何をするのかを表します。
マーケティングの4Pがこれに該当します。4Pの中でも特にプロモーションは近年多様性を増しており、一方的にマス市場での認知度を上げる従来の施策ではなく、デジタル技術を取り入れ購入後の関係性も含めた双方向のコミュニケーションを意識したものへと発展させていく必要があります。
詳しくは「マーケティングのボトルネック」の項を参照して下さい。
4.バリューチェーン
仕入→生産→物流→販売→アフターサービスなど、1〜3でデザイン(整理)したビジネスを遂行するために必要な機能を明確にします。
ここで大事なのは、何がこのビジネスの価値を生むか(生んでいるか)という事です。
営業利益率10%の会社が2社あったとしても、必ずしも同じ機能で付加価値を生んでいるわけではありません。一つの会社は他社よりも安く材料を仕入れる点に強みを持ち、一方の会社は効率的な生産を強みに高い利益率を確保しているのかも知れません。
先に挙げたカフェチェーンの事例では、スタバは良質な原材料や接客サービスに力を入れる事で高単価を獲得していますが、ドトールはローコストオペレーションによって、低価格でも高い利益率を確保できています。
他社には容易に真似できない強みを「コアコンピタンス」と言います。現代の風潮として、自社の経営資源をコアコンピタンスに集中して、それ以外の業務は外注化を図る傾向にあります。外注化すべき業務か否かの判断基準として、単に費用対効果を検討するだけでなく、社内に蓄積すべきノウハウか、他社から見えない「ブラックボックス化」すべき業務かを判断する必要があります。
5.収益モデル
誰からマネタイズするのか、単価はいくらで、徴収方法はどうするのか、そして1〜4で表したビジネスを遂行するのに必要な固定費と得られる収益性を表します。
コーヒー1杯あたりの利益はドトールよりもスタバの方が大きいでしょうが、一等立地出店による高い家賃や人件費はスタバのモデルを維持するのに欠かせない固定費です。
商品・サービスの代金は必ずしも利用者から得るものとは限りません。広告収入で成り立っている検索エンジンやオンラインゲーム等のITサービスはその代表例でしょう。
またお金の徴収方法も、購入時に徴収するスポット型や定額課金のサブスクリプション型など、自社の収益をデザインし易いだけでなく、利用者にとっても魅力的な方法が求められます。
一般的に自社のバリューチェーンを伸ばせば、利益率を向上させる事ができますが、固定費が上昇します。逆にビジネス遂行に必要な機能を外部に頼れば固定費は低く済みますが収益性は下がります。例えば、代理店を使って商品を流通させれば、効率よく商品の商流・物流を確保できますが、自社のマージンは低減します。